Adagio
やがて、どちらからともなく結びついていた手が離れていく。
音が、切り離される。
それがとても怖いから、あとほんの少し決意が揺らいでいたらさっきの言葉を取り消していたかもしれない。
俺が彼女に提示した期間は2ヶ月だ。
けれど本当にそんな短い間だろうか。
2ヶ月後にも奏は同じ笑顔を向けてくれるのだろうか。
この手に残る体温と、あとひとつだけ何かが欲しくて、俺は必要以上の大声で叫んだ。
「2ヶ月後!」
派手なメッシュを散らしたカフェオレ色の髪がなびく。
「2ヶ月後、市内のコンサートホールで!」
何のことかと目をしばたたいていた彼女がふんわりと笑う。
「りょーかい。行ってアゲル」
くだけた口調、やけにカタコトな語尾。
全部大嫌いなはずだったもの。
だけど今、どうしようもなくそれが大切だ。
切り離したこの音がいつか繋がるよう、俺は奏の背中を見えなくなるまで見送った。
…自由曲が、決まったよ。