Adagio
「…いてもいいの?」
隣にいてほしいと甘い言葉をささやけたら、奏をもっと安心させられるのだろうけど。
生憎俺はそんな性分じゃない。
「そういう人よりは、奏の方がずっとマシだ」
あぁ、我ながら自分の不器用さを呪いたい。
なんて遠回しで、格好悪いセリフだろう。
まだ鼻をすすっている奏にハンカチを手渡せば、彼女は自分のポケットを探りながら断ったものの、
「やっぱ持ってなかった」
と言って恥ずかしそうに眉を下げた。
俺のハンカチで遠慮なく鼻水を拭きながら奏がぽつりと呟く。
「やっぱ、リーチはリーチだね」
それは俺の銀のトロフィーのことを皮肉っているのだろう。
言い返す言葉も無いので苦笑しておく。
いつかあの金に、手が届くと信じて。