Adagio
気遣わしげにこっちの顔色を窺ってくる視線に、どう反応すればいいのかわからない。
何も言わないまま見つめ返すと、奏の目がいつもより大きく綺麗に映った。
「ねぇ、さっきの演奏さぁ」
後ろで腕を組みながら彼女が一言。
「…ちょっと、自惚れちゃいそうだった」
俺の方も小さく息をつきながら一言。
「…いいんじゃない、自惚れても」
「え?」
そうして俺たちの世界は、少しだけ音を変える。
fine.