Adagio
明るい曲を暗く捉えれば、当然審査員から良い評価はもらえない。
そのためにも曲想を練るのはとても大事な作業だ。
…だというのに、こいつは。
「曲想とかどうでもいいじゃねぇか!早く弾いてくれよ、何でもいいから」
浅葱が上達しなかったのはこれが大きく作用している。
浅葱は良くも悪くも自分に正直で、気持ちのまま行動する。
だからどんなに哀しい曲であっても、うれしいことがあった時には楽しそうに弾いてしまう。
その逆もまた然りだ。
「しょうがねぇな…」
だけど俺はそんな浅葱が嫌いじゃない。
短所として見られることも多々あるけれど、それはとても人間らしいことだし、素直ってことだろ?
頭の中で流れるメロディを追いかける指は、モーツァルトの「きらきら星変奏曲」。
かなりベタな曲だけれど、お遊びで弾くぐらいにはちょうどいい。