Adagio
休み時間、放課後は使用届を出せば、そこを使って自由に練習してもいいことになっている。
いつもなら周りも顧みない勢いで練習に臨むのだが、どうも最近の俺は調子が悪い。
部屋の四隅まで届かず落ちていく音符たち。
力加減のできない指。
いや、できないんじゃなくてやらないのか。
音楽なんて大嫌いなはずなのに、それでもこうしてグランドピアノの前に座り続ける俺は相当自虐的だ。
「でも、やらないとな…」
3カ月後には一番大事なコンクールが待ち受けている。
それで好成績を出せなければ学校での成績はおろか、将来まで危ぶまれる。
常に周りと比べられ、少しでも劣る部分があれば蹴落とされる。
音楽科は、そういう世界だ。
将来なんて考えずにとりあえず大学に行っておけばいい普通科とは訳が違う。