Adagio


チューバは大きい分、多くの肺活量が必要になる。


けれど彼は背が高いわけでも筋骨隆々といったわけでもない。

いやむしろ、こんなに細くて小さくて頼りない奴が本当にチューバを弾けるのかと思うぐらいだ。

「よく言われるんだ。お前が本当にチューバなんて弾けるのかって。もっと軽いフルートやクラリネット、金管楽器ならトランペットにしておけって」

ぎくりと肩が跳ねる。
まさに俺も同じことを考えていたからだ。


「でも、俺はピアノよりトランペットより、チューバがかっこいいと思うな」

多分みんな同じこと考えてるんだろうけど。


その言葉に胸中がざわつく。

そうか?本当にそうなのか?


俺は、本当にピアノが一番だと思いながらピアノを弾いてるのか?


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