Adagio


そう考えると急に怖くなってきて、俺は早足で教室を出た。


ピアノが一番だとかチューバが一番だとか、考えたことが無かった。
それはおかしいことなんだろうか。

俺以外の奴はみんなそんなことを考えながら演奏していたのか?


考え事をしているうちにいつの間にか音楽科の棟を通り過ぎて、普通科の棟にやって来ていた。

音楽科と普通科は制服が違うから、周りの生徒が奇異なものを見る目で俺を眺めている。


居心地の悪さに耐えかねて帰ろうと踵を返した所で、見覚えのある化け物みたいな目と目が合った。

普通科の昼休みは友達同士で机を寄せ合って食べるものだと思っていた。

それにこいつは彼氏がいるんだから彼氏といちゃいちゃやっているんだろうと。



「…奏?」

「リーチ?」

なのに奏の机は、周りの机から遠ざけられてまるで離れ小島のようだった。


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