Adagio
音楽科の教室で一人で弁当を食べていても何とも思わない。
だってそれは音楽科の中で特に珍しくも無い光景だから。
けれど普通科のこの教室の中だとどうだろう。
一人で昼食をとっている奏がとてもかわいそうで惨めな存在に見えて来てしまう。
そんなことを思うこと自体がひどいと知っているのに。
俺が黙り込んだのを見て、奏がまだ中身の残っている弁当箱を急いで片付け始めた。
彼女自身も自分の惨めさを分かっている所が、また居たたまれなくて。
「どーしたの?ここだとその制服めちゃくちゃ目立つんだけど」
「あぁ、考え事、してて」
俺の口調がぎこちないことに気付かれただろうか。
気付いたとして、どう思っただろうか。
気まずくて顔を上げられない俺に、奏が言う。
「今日も練習室行っていい?」