Adagio
頷きかけて硬直する。
「あ、今日は練習しないんだ」
そう言うと彼女は耳にいくつも付けたピアスをジャラジャラ揺らして不服そうに眉を寄せた。
「はぁ!?マジなくない、そういうの」
なくない、というのは結局どっちの意味なのかと考えている間に、奏はポケットから鏡を出して丹念にメイクを直していた。
仮にも公衆の面前でその態度はいかがなものか。
「そんなこと言われたって、今日は予約取ってないから仕方ないだろ」
「リーチのバーッカ」
「なっ」
カチンと来たものの、一昨日や昨日のような理詰めでの攻撃が無いことに若干の物足りなさを感じて押し留まる。
あぁそうか、誰かに話してしまいたいんだな。
だけど生憎俺はそこまで優しい性格じゃない。
「彼氏にでも聞いてもらえば?じゃあな」
まとまりかけた曲想はぐちゃぐちゃ、糸のように絡まるだけだった。