Adagio
朝起きると、昨日の考え事のせいか頭がやけに痛んだ。
どうやら「マゼッパ」をかけたまま寝てしまったらしい。
ベッドの脇のコンポからは絶えず同じ曲がかかり続けていた。
朝食も取らず、いつもより早く家を出る。
朝から練習室を借りて練習すれば、少しは頭もすっきりするかと思ったからだ。
けれど道中、思いもかけない人物に出逢う。
「あっれぇ?リーチじゃん」
それがかわいいと思っているのかはたまた寒いのか(今は初夏だが)、カーディガンの袖を目一杯伸ばした奏が首を傾げる。
肩に掛かるペタンコのカバンに教科書が詰まっている様子は無い。
「なんでこんな早いんだよ…」
しかもその頭には新しく、昨日隣にいた男と同じ色の派手なメッシュが入っている。
見かけ通り不真面目に登校していればいいものを。