Adagio
だってさっきまでの奏はすごく儚くて、哀しそうで。
今だって態度だけはいつも通りだけど、こうして上から見上げてみればなんてことは無い。
「…こんなので、誤魔化すな」
そんなに苦しそうな顔で迫ってこられたって、うれしいわけがない。
「なぁんだ…リーチだって泣いてんじゃん」
「うるさい」
項垂れた髪の隙間から輝く雫が落ちてベンチに染みを作る。
不謹慎だけども、誰かの涙っていうものはこんなにも綺麗だ。
再びベンチに腰掛けると、ゆっくりと奏がしゃべりだした。
「結局体が目当てだったんだって、思っちゃうよね。リーチの言う通り、別れてよかったよ」
こういう時に力強く彼女を抱きしめられるような人だったなら、俺は今悩んでいないんだろうな。
「ありがと。じゃあまた放課後ね!」
…あぁそうか、それを忘れる所だった。