Adagio


俺から離れかけていた奏との距離が一気に縮まる。

「なんで!」

まだ聞くのか、そうやって俺の傷口を遠慮なく抉っていくのか。

もうこうなったら自棄だった。


「普通に考えて嫌だろ!今まで名前も聞いたことなくて、絶対俺より下手だと思ってた奴が!実は俺より格段に上手い奴で、しかも一緒に練習しようだなんて!」

偉そうに両腰に手を当てて、奏が俺と同じボリュームで声を吐きだす。

それは中庭中にわんわんと響いて、きっと校舎の中にいた生徒にだって聞こえていたに違いない。

「だからリーチの演奏はつまんないんだよ!自分より下を見下すばっかりで、競争心なんてちっとも無い!」

間を置いて、息を吸って、喉も痛いだろうにぜいぜい言いながらもまだ続ける。



「自分より上手い奴がいたら、もっともっと上手くなりたいって思えよ!!」


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