Adagio
走って第2会議室に戻り、駒田にさっきの非礼を詫びると彼はちぎれんばかりに首を振ってそれに応えた。
そればかりか、びしょ濡れで真っ赤に目を腫らした俺を心配してくれた。
「悔しかった、だけなんだ」
いつもならこんなこと、絶対に口に出さない。
言葉にしない代わりにいつまでも心の中でこの悔しさを煮えたぎらせていたことだろう。
だけど突きぬけるぐらい真っ直ぐな人が、言葉が、俺に教えてくれたから。
少しぐらいは変わろうと思うよ。
「駒田は俺なんかよりずっと上手で、そんな奴と練習なんて我慢できなかった」
「えぇ!?」
駒田が飛び上がって驚く。
その純粋さに、自分のすべてを他人にさらけ出せる姿にまた嫉妬心が浮かびあがる。
だけど次に、彼は驚くべき言葉を俺に差し出してきた。
「俺は、北浜くんの演奏に憧れてるよ」
……え?