Adagio
そんな俺をどこか寂しそうな目で見つめながら、駒田が呟く。
「音楽は、嫌い?」
嫌いなわけがない。
音楽が嫌いだったら、音の溢れるこの学校に平気で通えるわけがない。
ただ、そう。
「悲しくなる…」
こんなに近くにあるのに、俺は音楽を「道具」としてしか見られない。
自分に付いてくる付加価値であるとしか思えない。
駒田のように心から音楽を好きになれない自分が、悲しくなる。
その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「…今日の練習、楽しみにしてるね。教室に戻ろっか」
そうやって深く突っ込んでこないことが救いだった。
今綺麗事を並べられたら、絶対に駒田とは練習できなかった。
“いつか好きになれる”だなんて、確証の無い言葉はいらない。
俺をふやかす生ぬるい言葉より、俺を厳しく正す鋭い言葉の方が俺には必要だった。