*JEWELRY BOX*
『おじゃましまーす!』
梓とあたしが言うと、
リビングより奥の部屋のドアを
ガリガリッ!と音を立てて、必死に
開けようと頑張っている犬の影が
曇りガラスに透けて見える。
瀬菜がドアを開けると、
ワンワンッ!という犬の声と同時に
ドスンッ!と鈍い音が聞こえてくる。
あたしと梓が慌てて駆け寄ると、
『いーーってぇっ!』
尻もちをつくような体勢で
お尻の辺りをさすりながら
涙目になる瀬菜の姿があった。
……うわあ…可愛いっ!!!!
真っ白で毛並みの綺麗なその犬に
思わず見とれてしまう。
涙目になる瀬菜を横目に
『こんにちは。おじゃまします』
と言って頭を撫でてあげた。
梓は心配するどころか
瀬菜を見て馬鹿にするように
"ぷぷーっ"と笑って見せる。
『おいコラ道子!毎回毎回飛びついてくるんじゃないよ!!あたしの可愛いお尻が腫れ上がったらどうしてくれんのよっ!!』
み、みちこ…?
『腫れ上がったらお気に入りのスキニーが入らなくなって、蒙古斑(もうこはん)みたいなアザが出来ると思いま〜す』
と、梓。
『あ、なにそれうける』
からかう梓に納得する瀬菜。
二人の掛け合いが面白くて
ついつい笑ってしまうんだ。
『…そんなことよりミチコって?』
『え〜?知らないの?道子はさっきのデカくて白い犬だよ』
『ず、随分和風な名前だね。名前までは知らなかった』
そう。何度か瀬菜の家に来たことは
あったけど、道子に会うのは初めてだった。
『お父さんの初恋の女の子が道子って名前で、どうしても道子がいいってうるさかったから付けただけなんだけどね。まっ、犬の方の道子は男の子なんだけど』
『えっ男の子なの?』
と、思わず笑ってしまった。