誠姫
第一章
開幕
「お嬢様・・・姫芽お嬢様、お目覚め下さい・・・・」
真っ黒のスーツをきっちりと着こなし、お嬢様と呼ばれるまるで二次元の世界から出て来たような、眠れる森の美女とでもいおうか、天蓋付きのベッドに横たわるお姫様の目覚めを待った。
その隣では、入れたての紅茶とベーグルサンドが湯気を立てている。
「お嬢様・・・・・」
男がそうもう一度呼ぶと、美女は寝返りを打ちながら「うーん」と小さく唸った。
そして、ゆっくりと目を開けた。
「おはようございます。お嬢様」
朝一の紳士的な笑顔を見せる男の名は、向井悠。
この男もまるで二次元住民のような顔立ちで美しく、年齢不詳。
姫芽の付き人だ。
「まだ起きるのには早いんじゃないの?」
眠たい目を擦りながら、大きな三角屋根の時計を見つめて指摘した。
だが、執事とでも言おうか、そんな役割である彼がミスをするはずがない。
口角を上げ、静かに落ち着いた声を見せた。