誠姫
ザッザッという音が、自分の足音だと分かっていても、不気味に感じる。
涙目になりながらも何とか雑木林を抜けると、見慣れない住宅地へと出ることができた。
家があるのだから、人が居る。
そうイコールで繋げることで、姫芽は自分が一人ではないことに安心した。
「それにしても、父様達は何を考えているのかしら」
風景が見慣れない和風の家ばかりで、電柱も全く見当たらない。
いつか訪れた京都の町並みに似ているが、ここまで古い匂いは漂わせていなかったはず。
「どこかしら此処は」
誰かに尋ねたいところだが、生憎今は空を見る限り夜であり、人通りは見受けられなかった。
肌寒くなり、自分で何とかしなければいけないなどという経験初めての姫芽は、ただ困惑するだけだった。
その時、月明かりに照らされる一本の大きな桜の木を姫芽の瞳が捕らえた。
「夜桜……」
満開に枝を広げるそれは、不安でいっぱいだった姫芽の心を少しばかり和らげた。
「綺麗……」
花見なら毎年のように家族総出で宴会を開いている。
それも、一番の特等席を予約して。