誠姫
なので大きな綺麗な桜なら、腐るほど見てきたはず。
なのに、今さらそんな言葉が出た。
そして、運が良いのか悪いのか、その声を捕らえた者が居た。
「こんな時間に女の子が一人で何してるの?」
突然背中にかけられた言葉に、姫芽は警戒心と共に勢いよく振り向き、声の主を確認した。
「だ、誰!?」
暗くてよく見えないが、確実に男の声だった。
男はどうやら数人を引き連れているようで、警戒心が指先まで通っている姫芽は一歩身を引いた。
そして男が右手を腰に当てたのと同時に、カチ…という音が小さく聞こえた。
そして何やらスーッと棒のようなものを引き抜いた。
刀だ。
見慣れない物で理解するのに時間がかかってしまったが、男が手に持つそれは、確実に刀であった。
もはや、恐れることしか出来ない。
姫芽は背中に大量の冷や汗を流し、後ずさりを続ける。
と、月の光が反射して男の顔が見えた。