誠姫
男に全く免疫の無い姫芽は、前も後ろも警戒しながら不安な表情で足を進めた。
そして、案内された一つの襖の前で立ち止まる。
突然の急ブレーキに前のポニーテールの男にぶつかりそうになるのを全力で阻止し、わずか数センチの距離で止まることが出来た。
だが、そこで気付いた。
この人、刀持ってる。
状況が状況なため、今までそこまで目をやることが出来なかったのだ。
姫芽に更なる恐怖心の煽りを立てた。
まさかと思い、ゆっくりと後ろを振り返ると、未だニコニコしている男の腰にも、刀はあった。
昨夜の刀に反射した桜が頭に浮かんだ。
その時、前の男が襖に向かって喋りかけた。
「近藤さん、入るぞ」
中から聞こえたこれまた男の声を確認すると、襖を開けた。
無言で「入れ」と促され、断ることも出来ず、恐る恐る足を踏み入れる。
部屋はさっき姫芽が居た部屋とあまり変わらない構造で、生活感のないその中心にはがたいの良いおじさんが一人。
この人はあの二人とは異なり、優しそうな空気を放っているも、腰にはやはり刀が挿してあった。