誠姫
「おめぇ、長州の間者とかじゃあねぇだろうな?」
「ちょうしゅうのかんじゃ・・・?」
聞きなれない単語に、姫芽の頭は漢字に変換することなど出来なかった。
「ちょうしゅーって何ですか?かんじゃ?カンジャ?・・・患者?」
「え、お前長州も知らねえのか?」
長州を知らない時点で、間者ではないことを示しているにも関わらず、土方は何故か嬉しそうに声を高くした。
まるで馬鹿にしたような口調だ。
「黙りなさい。東京も空港も電話も知らないような人にそんなこと言われたくないわ」
冷静に息を吐き、子供のような土方を呆れたような目で見据えた。
「うるせえ!知らねえのは俺だけじゃなかっただろうが!!」
「声が大きいわ。聞こえている。それで?“ちょうしゅう”も知らない私が何だって?」
「間者かって聞いてんだ」
「かんじゃ?」
「倒幕派の長州藩の密偵かって聞いてんだ」
「倒幕?良く分からないけど、密偵なんかじゃないわ。私はただの西園寺家の一人娘よ。そんなことさせられる訳が無い」
「ふっ・・・倒幕も知らないのか」