誠姫
「そ、そうかしら…」
素直に喜びを表現するのが下手な姫芽は鏡に映る自分から目を逸らし、ぎこちない返事をする。
「お誕生日おめでとうございます。最高の一日にして差し上げましょう」
まったく、なぜそんな台詞、恥ずかしげもなく言えるのかしら。
姫芽は「ふんっ」と口を尖らせ、鏡台を離れた。
そして大きなステンドグラスの窓を開け、遠くを見つめる。
いつもの姫芽の照れ隠しだ。
褒められたり、嬉しい言葉を掛けられると必ずと言っていい程、赤くなった顔を風に晒すかのように窓を開ける。
突然背を向けられた悠は小さく微笑み、「そういえば…」と姫芽より頭1つ分以上ある長身を生かして無理やり窓を閉めた。
「ご主人様がお嬢様にお話がと申しておりましたが、何か聞かれましたか?」
風で乱れた姫芽の髪を手櫛で整える悠を当たり前のように眺め、「知らないわ」と言葉を切った。
「そうですか…私が伝言として預かっておけば良かったですね」
「そんなの悠が気にすることじゃないわ。父様も今に現れるわよ、きっと」
と言ってすぐだった。
ベッドに腰掛けた姫芽から遠い、大きな扉がノックされる音が鳴った。
「ほら、父様だわっ」