誠姫




一方、姫芽は場所も分からず無闇矢鱈に足を進めていた。



「ありえない」を連呼しながら。



今まで、驚くようなことは沢山あった。



夏休みに入った途端、目が覚めるとそこは海外だったり、修学旅行から帰ってくるとまるで違う世界に帰ったように部屋ががらりと改造されていたり。



父のすることはいつも唐突だった。



だが、今回のようなことは初めてだった。



まず、西園寺家にタイムマシンなんてない。



宇宙旅行計画は進んでいても、時間旅行なんて聞いたことがない。



GPSの使えない場所に姫芽連れて行くことなんてありえない。



父の仕業じゃない。



そう分かっていても、心の隅で父を責める自分がいた。



「もう何なの・・・」



頭を抱え、しゃがみこんだ。



その時、ピンク色の桜の花びらが姫芽の視界を横切った。



不意に顔を上げる。




「桜・・・」




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