誠姫
「あっれー?何で二人ともこんなところに居るのかなー?」
憎たらしく語尾を伸ばして近づいてくるのは他でもなく巡察中の沖田総司であった。
斎藤が右下を向いて、小さく舌打ちをしたのが姫芽にだけ聞こえてきた。
「ここ甘味屋だよね?着物は・・・まだ買えてないみたいだけど」
姫芽を頭から足元まで目で流し、それから斎藤を見る。
「これから行くところだ」
沖田の相手を手短に済ませ、斎藤は姫芽の手を引いて歩き出した。
だが、それを止めないわけがない。
既に後ろにいる沖田はふてくされたように口をへの字に曲げた。
「僕も着いてこうかなー・・・」
振り向く斎藤の顔色を窺いながらニヤリと笑った。
姫芽には斎藤がその時どんな顔をしたのかは見えていなかった。
「と思ったけど、巡察中だからやめておくよ」
沖田が身を引くのは珍しい。
姫芽はこの短い一瞬のうちに二人の間に何が起こったのか知らぬまま、ホッと肩をなでおろした。