誠姫
それから呉服店までは早かった。
あと少しの距離をどうして歩けなかったのだろうと疑問になるくらいすぐ近くにあり、申し訳ないと姫芽は肩をすくめて斎藤の後を追った。
「こいつに着物を何か一着」
斎藤が店の主人に姫芽を突き出すと、主人は意気の良い声色で「はいよ~」と数ある着物を漁りだした。
「これなんかどうだい?」
主人の手には赤色の少し派手目の着物があったが、斎藤は不満そうに首を傾げる。
「じゃあこっちの青は・・・」
だが斎藤の納得いかない顔は崩れない。
それからも主人は何枚かの着物を見せてくるも、斎藤はなかなか首を縦に振らない。
「あの、斎藤さん。この着物って私が着るんですけど・・・なんで斎藤さんが・・・」
だが、そんな姫芽の疑問の解決の間もなく、斎藤は一枚の着物を選び出した。
「これで」
「ちょっと!?」
「かしこまりました」
主人は斎藤から渡された着物を大事に受け取ると、反発する姫芽を無理やり奥の部屋へと引き連れていった。