誠姫
月照らす背中
「只今戻りました」
斎藤の低く落ち着いた声に続いて、姫芽は倒れこむようにして土方の部屋に飛び込んだ。
「疲れたーもうありえない!!」
そんな姫芽の様子に、土方は「何事だ」と持っていた筆を焦って置いた。
「遅くなって申し訳ありません、副長。途中色々ありまして・・・」
姫芽に視線を飛ばしながら疲れた顔を見せる斎藤。
呉服屋からの帰り道、着物の帯がきついだの、もう歩けないだの、団子を食わせろだの、散々文句を言いながら、ようやく帰ってこれた次第。
「な、何よっ」
自分のせいで帰りが遅くなったことなんて分かっている。
だからこその強気だ。
「まあ、着物も買えたようだからお前は部屋に戻ってろ」
一瞬だけ姫芽の着物姿を見たかと思うと、またすぐに机に向かう土方に、姫芽は頬を膨らました。
「ちょっと何か感想とかないの?女の子が新しい服を着たというのに」
悠だったら新しいドレスを着ると真っ先に褒めてくれると、土方の背中に叫ぶ。
「行くぞ」