誠姫
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『おやすみなさい、お嬢様』
いつもの低く優しい悠の声が頭の中でこだまする。
だが耳に届くことはなく、姫芽は淋しさを覚えた。
夜になるといつも考えてしまう。
いつになったら元の時代に帰れるのだろうか。
姫芽は、毎晩眠れぬ夜に目を閉じていた。
父に、母に、悠に会いたい。
何度も何度も『会いたい』が繰り返された。
今日は沢山歩き、重い着物を身にまとい、体はひどく疲れているはず。
なのに眠れないのは不安の方が大きいから。
姫芽は薄っぺらい布団を剥ぎ、部屋を出た。
しんと静かな廊下は誰も居なく、姫芽が勝手に出歩くのをとやかく言う者は居ない。
「もしこんな時間に部屋を出たら、悠は黙ってないだろうな・・・」