誠姫
低くまだ聞きなれない声が姫芽の名を呼んだ。
驚き、勢いをつけて振り向く姫芽の前に立っていたのは、他でもなく新撰組副長土方歳三だった。
「何をしているこんな時間に」
眉間に皺を寄せ、疑うように尋ねる土方に、姫芽は「別に」と再び月に目線を上げた。
「ただ、眠れないだけよ・・・」
小さく呟くように言う姫芽。
土方から表情が見えない分、姫芽の声は切なく聞こえた。
「風邪を引くぞ」
「平気よ」
「馬鹿か。風邪引かれたらこっちが困るってんだよ」
そんな土方の声が段々と遠ざかっていった気がした。
かと思えば、背中にふわりと温もりを感じた。
「それでも着てろ」
言って肩に掛かけられたのは、新撰組の羽織だ。