誠姫
土方は「よいしょ」と体を重く立ち上がらせ、襖に手をかけた。
「はいはい。とりあえず俺もさみーから襖は閉める。入りたきゃ入れよ」
「だから、その口調気に入らないわ」
文句を言いながらも、姫芽は中途半端に腰を上げ、土方の部屋へと侵入する。
そして夜の薄暗い部屋で、再び仕事に取りかかる土方の背中を黙って見つめた。
お互い何か話す訳でもなくその穏やかな空間を共有する、それだけでも姫芽は少しばかりだが、安心できた。
姫芽は柱にもたれかかり、肩をすくめて目を閉じた。
突然静まり返った姫芽に違和感を感じ、手を止めた土方は首だけを姫芽の方へと無理やり回した。
姫芽は大きく息をしており、完全に眠っている。
何も疑うことなく、土方はため息と同時に立ち上がった。
「よっこらせ」なんて年ではない。
この状況に息をたくさん吐いたのだ。