誠姫
第三章
赤に舞う羽織
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とある夏、太陽も沈みセミの声が治まった暗い夜。
屯所では、隊士たちの荒々しい足音と、緊急を装う話し声が交差していた。
事態を何もしらない姫芽は、ただの騒音だと眠い目を擦りながら自室からのそのそと出てきた。
「土方・・・?何なのこの騒ぎ・・・」
本当にたった今眠りにつこうとした姫芽の目はゆっくりとしか開かず、時間をかけて月の光に照らされる土方を映した。
暗闇のせいで淡く映った浅葱色の羽織、頭に巻いた白い鉢巻。
そして、腰に挿す二本の刀。
「土方・・・?どこに行くの?」
何故か一気に不安が押し寄せた姫芽は、目を丸くしてその姿を見た。
そして、そんな格好をしているのは土方だけではない。
新撰組幹部、それから他の隊士までもがみな羽織を身にまとっていた。
こんな夜に。
新撰組について詳しくは知らない姫芽でも、ただ事ではないと、何かあったのだと気づかないわけがない。