誠姫
不穏な空気の中、土方はまっすぐと姫芽へと視線を向け、低く落ち着いた声を出した。
「今からお前に重大な役を任せる」
「え・・・?」
一気に目の覚めた姫芽だが、土方の言っている意味がいまいちよく分からなかった。
「今から俺たちはここを留守にする。その間、屯所を頼む」
やっぱり、よく分からなかった。
土方は目に力を入れ、「姫芽にならできる」と大きくうなずいた。
だが、姫芽にそんな保障はない。
去り行く土方の羽織を追いかけ、裸足で中庭に飛び出した。
「待って!」
石ころが足の裏に埋まり、小さな痛みが走る。
瞬間、小さい頃の記憶が姫芽の頭の中で駆け巡った。
『姫芽、今から父様と母様はお仕事だから、お留守番できるよね』
言って、遠くなる両親の背中。