誠姫
広く、大きな家に一人でいることがどれだけ淋しいか、姫芽は知っていた。
「待って・・・どこ行くの?・・・一人にしないで」
初めての弱音だった。
不安だったのだ。
何故か、もう二度と帰ってこない気がした。
「何だ?お前らしくない台詞じゃねーか」
土方はこのしんみりとした空気を変えようと、陽気に「ははは」と笑った。
だが、姫芽の表情は優れない。
俯いて動かない姫芽を、土方は躊躇うことなく抱き寄せた。
「俺たちが帰った時、お前はただ屯所に居ればいい。すぐ戻るから」
そして、姫芽を残して土方は、新撰組は屯所を後にした。
背中の「誠」の字が月に照らされ、いつもより美しく見えた。