キミは嘘つき蝶々
森口を消したくないって思いは一緒だし。

松宮が言いたいことが理解出来ないわけじゃない。

でもなんだか納得がいかなくて、イライラする。

確かに、森口は藤森アンナが自己防衛手段として産み出した、別の人格なのかもしれない。

でもだからって、

藤森アンナの辛さや心の傷を森口におしつけていいとは思えない。

松宮にとって森口は藤森アンナの一部なのだろう。

だけど

俺にとって森口は、『森口カンナ』って名前を持った、ただ一人の人間だ。

森口のへんてこな似顔絵を見下ろす。

笑顔にも泣き顔にも見えるその顔は、俺から見たあいつの姿なのかもしれない。


ずっと、こいつは我慢ばかりしてきたのかな?

そう思うと、少し苦しくて、

そっと指の腹で頭に当たる部分を撫でた。

「消えたりすんなよ」

スケープゴートとして生きて、用がなくなったら消える。

そんな人生なんて悲しすぎるだろ?

「クソばばあの言いなりになんてなるな」

森口にだって幸せに生きる権利があるはずなんだ。
友達と笑ったり、恋したり。

人間として生きていいはずなんだ。

『……わ、私は、いずれ、き、消えてしまう、から。
だから……だから、誰も……好きになったら、ダメなんです』

あの泣き顔が、頭から離れない。



なあ、森口。

あきらめるなよ。

お前だって本当は………


消えたくないって、思ってんだろう?





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