キミは嘘つき蝶々
ああ、もう。

こういう時どうするんだったか?


かちかちに固まったままの森口を横目に見ながら、弱り果てて、溜息を漏らす。



今まで付き合って来た女は俺が怒ると、甘えるか泣くかで……

大概、抱きしめてキスでもしとけば、うやむやのまま収拾がついた。

どうしても事が収まらなければ、面倒くさくなって簡単に別れて来た。



別に、どうだってよかった。


誰にも

執着したことなんてなかったから……―



でも

森口は違う。


まるで、

壊れやすい硝子細工みたいに。

触れることすら、怖くて。

嫌われてしまわないか不安で。

こうして

怖がらせてしまっても、どうフォローしたらいいのかさえ分からない。


ごめんと心の中で呟いて、俺は手をのばすと、彼女のやたら重そうな鞄を引ったくった。

「………送る」

「え?」

ぽかんとした表情で、森口が自分の手と俺を見比べる。

俺は黙ったまま、森口の鞄を脇にかかえ、くるりと背中を向けて歩きだした。


これだけの事に、かなりの勇気を振り絞った自分が可笑しくて。

ドクドクと騒がしい心臓が煩くて。



ちょっとだけ頬が熱かった。
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