キミは嘘つき蝶々
「……あの………」


森口の声に、立ち止まる。


「なに?」

振り返ると、彼女はぱっと視線を下げて足元を見た。

「あの…
私の思い過ごしだったらごめんなさい。
……でも、これって」



ドクンと胸が鳴った。



森口が何言おうとしているのか気になって、

俺は息を飲んで彼女を見つめた。

「なんだよ」

掠れた声で問うと、

森口は言いにくそうに口ごもり、モジモジと胸の前で組んだ指を動かした。


まさか……

まさかだよ、な?

もしかしてこいつ、俺の気持ちに気付いてんのか?


待てよ

待てって

俺だってさっき自覚したばっかだぞ?

とろくさい森口が気付くわけがない――…


傾いた太陽が俺達を赤く染め上げていく。


「……片桐くん」


躊躇いがちに

森口が俺を見上げた。

俺は息苦しさを覚えて、早鐘のように鳴り響く心臓を押さえた。




駄目だ

まだ

――…心の準備が
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