キミは嘘つき蝶々
「おおおおばあさまが」

森口は俯いて大量の汗をかきながら続けた。

「かかか片桐君には近づいてはならないとおっしゃるので」

「は?」

内心、「片桐くんが嫌いだから」と答えなかったことにほっとしながらも、俺は顔をしかめたまま口を開いた。

「んで、おまえはばーさんの言いなりになってんのかよ」

「おおおおおばさまの言葉は絶対です」

怯えながらも言い切る森口に、なんとなく、あの家でのばーさんの立ち位置がわかったような気がした。

完全なる独裁者。

妖怪、お言いつけババア。

「べつに学校に見張りがついてるわけでもないし。
そこまで避ける必要なくね?
それとも別に理由があるわけ?」

話を核心に戻す。

俺が知りたいのは、妖怪ばーさんの言いつけじゃない。

森口自身の気持ちだ。

「かかか片桐くんは」

かああっと顔を赤らめて森口は自分を守るように本を胸に抱いた。

「どうして、私なんかと話したいんですか?


「……………」

しん、と沈黙が降りた。

答えを返さず黙ったままの俺に、森口は恐る恐るといった風に目線を上げた。

俺と彼女の目が合う。

そのまま彼女は金縛りにあったように俺を見つめた。

今、自分がどんな顔をしているのか、わからない。

でも、きっと。

すごく情けない顔をしてる。

「俺は……」

掠れた声が出た。

森口の肩がびくんと震える。

鳴り止むことのない心臓の音が、俺の余裕のなさを物語っていた。

「俺は森口が……」





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