キミは嘘つき蝶々
「…………」

ヤバい。

引き止めてみたものの、特に話すことがない。

「あ、あの?」

森口が困ったように俺と捕まれた手首を見比べている。

「……」

どうしよう。

このまま沈黙を通すのも変だし。

かと言って、気のきいた話題もない。

ああ、くそ。

なんで俺、引き留めちまったんだろう?

「……あ、……っと……」

会話の糸口を探して必死に思考をめぐらせる。

普段なら

女となんて意識せずに会話してるのに。

相手が森口になった途端、なんでこんなにテンパるんだ。

よく、考えれば

俺は森口のこと、何も知らない。

今まで、ろくに話したこともなかったし。

共通の友達とかいないし。
てか、森口の友達って誰だっけ?

家族構成も謎のままだし。

「あ……藤森……アンナってお前の何?」

ふと思い付いて口にした。

そこまで深い興味があったわけではない。

ただ家族のことを知れば、もっと彼女に近づける気がしただけだ。






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