キミは嘘つき蝶々
でも

「………」

森口から帰ってきたのは、息がつまるほどの重い沈黙だった。

わずかにうつむいた彼女が、俺から顔を反らす。

そのまま手を振りほどくようにして立ち去ろうとしたから

「………森口?」

俺はなぜか妙に不安になって彼女の名前を呼んだ。

こんな森口の素っ気ない反応を見るのは初めてで。

失言したんだと気づいたけど。


俺の質問のなにが悪かったのかは、わからない。

でも、このままにしておける訳もなくて、だからもう一度名前を呼んだ。

「森口?」

森口は振り返らないまま、足を止めた。

「……アンナのことは私に聞いても無駄です」

しんと静まりかえった空間に彼女の声が震える。

「私は何も出来ないし、したくありません」

「………は?」

「そういうことなら、もう諦めて下さい」

「ちょっ、待て。
なに言って……」

慌てて引き留めようとした俺の手をすり抜けて、彼女は早足で歩き去った。

呆然とその背中を見送っていた俺は、混乱した頭の中を整理したくて、ガタンと再び椅子に腰をおろした。



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