キミは嘘つき蝶々
小声でそう言いながら、ぐいぐいと隣の暗い部屋に押し込められる。

俺は夏にされるがままになりながら、ぼんやりさっきの二人を思い出していた。

入るこむ隙もないくらいにピタリと息の合った舞い。

二人の間に漂う狂おしくも切ない、艶っぽい空気。

まるで

恋人同士のように。

「…なあ」

俺は部屋の入口で足を止め、声をひそめて夏に尋ねた。

「森口と松宮て、どういう関係?」

俺の言葉に、ピタリと夏が動きを止める。

両手で俺の背中を押していた彼女は、うつむき、唇を噛み締めて、何かに耐えるように肩を震わせ息を吐き出した。

「……知ってどうするんですの?」

「……え?」

「知ってても。
それでも好きなら頑張るしかないじゃないですか」

独白めいた彼女の声は、今にも泣き出しそうに弱々しくて。

「花井?」

気になって顔を覗きこもうとした瞬間、

「男なら余計なことガタガタ言ってないで、サクッとさらってきやがれ、ボケ」

夏は低いドスのきいた声でそう言うと、容赦なく、どーんと俺の背中に蹴りを繰り出した。

「うぎゃっ」

バランスを崩して顔面から勢いよく部屋の中へとダイビングする。

思いっきり畳の上をすべった俺は、こすれた額を抑えうずくまった。

痛い。

むちゃくちゃ痛い!

「しばらくここで、静かにしていてくださいませ」

夏は冷たい声でそう言うと、ぷいっと身を翻して、ふすまをしめた。




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