キミは嘘つき蝶々
タンスの中とか、畳んで置かれたパジャマとか、押入れの布団とか。

べ、べつに全然気にならね−し。

ふっと、余裕の笑みを浮かべながら、俺はゆっくり立ち上がった。

部屋と部屋との間を隔てる、白い壁に近づく。

松宮を連れ出すために夏が向かったはずなのに、隣からは物音一つしてこない。

壁にぴたりと耳をつけても、話し声すらもれてこず、俺は首をひねった。

もしかしたら、壁が防音になっているのかもしれない。

まあ隣は稽古場らしいし、筒抜けじゃうるさいもんな……と、ぼんやり考えていると、前触れもなくふすまが開いた。

びくっと肩を揺らし振りかえる。

夕日が部屋に差し込んできて、眩しさに目を細めた。

入り口に着物姿のオンナが立っている。

逆光になって顔はよく見えないが、背格好は森口とよく似ていた。

「……森口?」

固まっている彼女に声をかける。

一瞬後、彼女が息を吸い込む気配を感じた。

「きゃ………」

「待て!!!!叫ぶな!!!」

慌てて彼女を部屋に引きこみ、後ろから腕をまわして口を押さえる。

じたばたと腕の中でもがく彼女をどうにか落ち着かせようと、俺は必死に言い募った。

「お、落ち着け。
俺はただ森口に会いたくて来ただけなんだ!!
べつに変なことするつもりとか露ほどもないから!!
ただ、ちょっと話したいだけだから!!」

ぴたりと彼女の動きが止まる。

俺はほっとして、腕の力を緩めた。

途端、

ドスッ

みぞおちに彼女の肘がめり込んだ。

「ぐふっ」

腹を押さえてうずくまる。

何か俺、今日はこんなのばっかだ。














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