キミは嘘つき蝶々
彼女の言葉が理解できずに、眉をひそめる。

「いないって。
そんなわけないだろ。
……さっきだって松宮と……」

言いかけて、首をひねった。

いや、あれは本当に森口だっただろうか?

後ろ姿しか見ていないから、はっきりとした確証はない。

夏が森口の所に連れていくと言ったから疑いもしなかったが、もしかしたら藤森アンナと見間違ったのかもしれない。

でも、……いや。

それでも。

「この間送った時だって、間違いなくばあさんとこの家に入っていったし。
その制服は森口の……」

「これは私の制服です。
入学して、すぐに辞めましたけど。
とにかく、あなたが探してるような子は、一族にも門下生にもいないわ。
わかったらさっさと帰ってちょうだい」

まるで、森口カンナなんてこの世にいないのだとでも言いたげに、彼女は俺に睨みをきかせた。

なんでだ?

なんでそんなに執拗に隠す必要があるんだよ?

「わかんねーよ。
なんであいつの存在まで否定すんの?
俺はただ森口に会いたいだけなんだ。
別に危害を加えたいわけじゃない。
俺は森口が……」

「誰か!
誰か来てください!
私の部屋に不審な男がいます!!
早く!」

藤森アンナは俺の話を最後まで聞かず、突然廊下に飛び出して叫び始めた。

「ちょっ、待て!
だから俺は!」

慌てて彼女を追いかける。

引き留めようと、着物の袖を掴んだ途端、バタバタと母屋から足音が響いた。

「どこじゃ!曲者めが!
この藤森千景の屋敷に忍び込むとは、いい度胸じゃ!手打ちにしてくれるわ!」
ギョッと目をむく。

廊下を猛牛のように突き進んでくるのは、森口の祖母、妖怪お言いつけバハアだ。

その手には恐ろしく時代錯誤なナギナタがにぎられていた。

(こ、殺される)

冷たい汗が背中を伝う。

俺はいち早く身を翻すと脱兎のごとく、屋敷から逃げ出した。







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