キミは嘘つき蝶々
「……馬っ鹿じゃねーの?」

彼女の腕をとり、無理やり胸に引き寄せて、かすれた声で呟いた。

本当にこいつは何もわかっちゃいない。

そんなこと言われて、離れるヤツがどこにいるんだよ?

不用意な言葉ばっかり使いやがって。

無自覚にも程がある。

腕の中に閉じ込めた森口は、柔らかくて、暖かくて、うるさいくらいドキドキしている。

か弱い小動物を抱いているみたいで。

俺は恐る恐る、抱きしめる腕に力を込めた。

ふわりと甘いシャンプーの匂いと、リアルな肌の弾力。

ただそれだけで

心臓が縮み、身体が震えて、息苦しいくらい高揚した。

ヤバい。

俺、

本当に、コイツが好きだ。

そっと首筋に顔を埋める。

そのまま、しばらく彼女の香りに包まれていると、次第に心が落ち着いていった。

ふわふわしたような心地いい時間が流れる。

しばらくその幸せに酔っていた俺は、ジタバタするのを止め、おとなしくなった彼女に気づいて、腕の力を緩めた。

「……森口?」

名前を呼び、のぞきこむ。

森口は、うつむいたまま固い表情で口を開いた。





< 88 / 130 >

この作品をシェア

pagetop