キミは嘘つき蝶々
森口がやたらばあさんに怯えているのは、そういう経緯から来ているのだろう。

あいつには家族はばあさんだけで、

その上母親に対する小言を幼い頃から刷り込まれて、

ばあさんに逆らうなんて、考えられなかったに違いない。


『彼女は4歳で初舞台を踏んで、それから子役としてドラマにも出てた。
でも中学生の時、誘拐事件に巻き込まれたんだ』

『……誘拐?』

驚いて問い返す。

松宮はゆっくり頷いて続けた。

『幸い彼女は無事帰ってきた。
でも、犯人は捕まらず事件は解決してないんだ。
だから宗家は彼女に名前を変えさせ、高校も目立たないようレベルを落としたところに通わせることにしたんだ。
僕と夏を護衛につけてね』

……レベル低くて悪かったな、と、ちらりと思ったがそれは横に置いておいた。

彼女が名前を変えた。

それが始まりなのだとわかったから。

『要するに』

ギュッと拳を握りしめる。

『藤森アンナと……森口カンナは、同一人物……なんだな?』

掠れた声で、そう松宮に確かめると

『……ああ。そうだよ』

松宮はあっさり頷いて、少し笑った。

『初めてアンナちゃんに会ったとき、片桐くんは、彼女をカンナちゃんと間違えたよね?
いや、それは結果的には間違いではなかったんだけど。
でも、長年通ってる門弟たちですら、彼女たちを別人だと思ってるのに、
一発で見抜く人なんて初めてだったから驚いたよ』

『……別に見抜いたわけじゃねーよ』

俺は不貞腐れて、頭をかいた。

ただ、一瞬、なんとなくだけど彼女と森口が重なって見えた気がしただけだ。

……結局は今日まで気づけなかったわけだし。

『……でも、あの時の藤森アンナは本当に俺を知らないように見えた。
しかも、藤森アンナと森口カンナの性格は別人だ。
あれは、あいつの演技なのか?』







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