恋する*spring~春をうられたわたし~【完結】
珠莉も俺に視線を向けたから目で合図した。
「翡翠さんと、お付き合いさせていただいてます。
嘉春珠莉と言います」
それだけ言ってお辞儀をした。
ちょっとたどたどしいけど、大丈夫だ。
「嘉春珠莉さんですか。
いやー、黒崎社長には家の娘をと思っていたんですけどね〜。
残念だ。
では、また後でお話しましょう」
そう言って、田沼は去って行った。
今一瞬……気のせいか?
それにしても……
「久しぶりに来ると、疲れるな」
そう言うと珠莉は俺を見上げた。
「お前はそれでいい」
だけど、さっきタヌキ親父が言ったことを気にしているみたいだった。
「あのクソ親父の言ったことなんか気にすんな。
あいつ、タヌキみたいだけど、娘もタヌキみたいだ。
誰がそんなやつと付き合うかよ」
「あはは」
俺が言うと笑い出した珠莉。
「珠莉………お前……」
珠莉がこんなに笑ったのは初めての事で俺は驚いた。