うすのろ馬鹿マヌケ
 雲雀は階段の裏の暗がりに引き込まれ、壁際に追い込まれた。

逃げることも叫ぶことも出来ない。
“そんなことをしたら殺される”、そんな有り得ないことが頭に浮かんだ。


ここは人通りも少なく、しかも今は授業中。
なんて運が悪いのかと雲雀は自分自身を呪った。


「俺んこと、覚えてるよな?」


やはり関西弁に近い訛りで男は喋る。

雲雀は無言で何度も頷いた。


すると男は雲雀の手の中にあった財布を取り上げる。


「あっ!」


それを拒もうとすれば、物凄い目で睨まれた。
その目に逆らうことが出来ず雲雀は縮こまってしまった。



カツアゲだ・・・。



雲雀の頭にその四文字が浮かぶ。

ただでさえ金欠だというのに、今ここでお金を取られたら今月生きていけるかすら危うい。
最悪だ・・・。最悪中の最悪だ・・・。

しかし男は予想とは裏腹に、財布の中の学生証だけを取り出す。
そして雲雀の顔と学生証の写真とを見比べる。


「服飾デザイン科・・・二年?」


男は納得のいかないような表情をする。

雲雀は黙って頷くことしかできなかった。


「あんまりちっさいから一年か思ったわ。」


自分でも気にしていることを言われ、雲雀は不満を抱いた。
しかしそれが表情に出ていたらしく男はまた睨んできた。


雲雀は肩をすくめることしかできなかった。
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