うすのろ馬鹿マヌケ
 正直、隼がそんなことを言うとは思わなかった。
どうせいつものようにしれっとした顔で“阿呆くさ”とかなんとか言うと思った。

雲雀は拍子抜けした。

けれどこれで隼の言いなりになることは免れた。
雲雀は心の中で小さくガッツポーズをする。


「あ、でも何か無いとどっちに命令権があるか忘れちゃいますよね。」


特に雲雀なら隼の口車に乗せられ、本当は自分にあるはずの命令権を隼に渡してしまいそうである。

すると隼は雲雀の首元を指差した。


「それでええやん。」


雲雀は視線を落とした。
隼の指先には、雲雀が首からかけていた王冠型のネックレスがあった。


「“うすのろ馬鹿マヌケ”って、知っとるか?」


雲雀は首を振った。


「トランプのゲームの一つや。
一枚ずつ手札から抜いて隣に回してく。
自分の手札のカードが四枚同じ数字になったら、真ん中にある“王冠”を取る。」


「王冠?」


隼は頷く。


「王冠言うてもなんでもええんやけどな。
ビンの蓋やら消しゴムやらすぐに取れそうなもんなら。
それを人数分より一つ減らして、取れなかった人間が・・・。」


「うすのろで馬鹿でマヌケなんですね。」


「そういうこっちゃ。
せやからお前が付けてるそれ、ソレをつけてる人間に命令権があるいうことでええやろ。」


「それとこれと何の関係があるんですか・・・。」


「あ?何か言うたか?」


隼の眉間には皺がよっている。


「・・・いえ、何も言ってません。」


雲雀は縮こまってそう答えた。
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