うすのろ馬鹿マヌケ
 男は苛立っていた。

朝から変な小さい女にカバンをぶつけられ、大して謝りもせずに去られ、その上再びそいつに出会ったと思えば券売機の前でわめいてるし。

“邪魔だ”と言えばとんだアホ面で見てくるし。
回りも白い目で見るし。


本当に最悪だ。


今日という日は限りなく最悪に近い。



男は怒りをぶつけるように、学食のきつねうどんをすすっていた。


「おっはよー、隼ちゃん。」


語尾にハートがつきそうな勢いで声をかけてきたのは、長身ですらっとした美形の男だった。


「瓢さん・・・。」


瓢(フクベ)は男の隣に腰を下ろした。


「なぁにイライラしてんの?さっきちっちゃい女の子に怒鳴ってたでしょ?
あーゆーの良くないと思うよ?」


男は箸を置き、苛立ちを抑えて言った。


「瓢さん、今俺に話しかけん方がええですよ。
かなり苛立ってますんで。」


「だからってあんな可愛い女の子に怒鳴っちゃ駄目でしょー。」


「苛々させたんはあのブスです。俺のせいやありません。」


「あ!またブスって言ったんだ!かわいそー。」


男は苛立つと女なら誰彼構わず“ブス”という癖があった。
瓢は当然それを知っていたため、被害にあった女性を哀れんだのであった。


「安城隼って言ったら校内でも有名なんだから、ちゃんと自覚して行動した方がいいよ。」


隼は再び箸を持ち、うどんを口へ運んだ。


「そんなの、俺の知ったことやありません。」


相変わらずのポーカーフェイスで隼は答えた。
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