ロシアンルーレットⅢ【アクションコメディー】
森本さんは手を口元へ持っていき、そっと自分の唇に触れた。視点の定まらない遠い目は、何か考えているように見える。


彼女は明らかに、話すか話さないかで迷っている。ここでもう一押し。


「俺の目的は、ホシの次なる犯行を阻止することだけです。児童虐待は管轄外。だから俺には関係ない。この施設も悪いようにはしない。それも保証する」


「児童虐待? 何のことですか?」

間宮くんが不思議そうに尋ねる。


知ってるのはコレじゃない? だったら何? どうして隠す必要があるんだよ?


ただ一つ確実にわかるのは、俺は余計なことまでペロンとしゃべっちゃったってことだけ。

まぁいいか。



「かつてこの施設で、職員による児童虐待が行われていました。ご存知なかったんですか?」


「知る訳ないでしょ、そんなこと。そんな、まさか……」


間宮くんは呆然とした表情で、俺を見詰める。その声が心なしか震えていたのは、哀しみからか、それとも怒りからか。



「間宮先生、やっぱり刑事さんにお話ししましょう。それがこの子たちのためでもあると思う」

森本先生が優しく促す。


間宮くんもコクッと小さく頷いて、けれど悔しそうに下唇を噛みしめた。


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