ロシアンルーレットⅢ【アクションコメディー】
「全部説明してる時間はない。一刻も早く、全員を連れてここから出て」

声を潜めて早口で言ったが、事務員を益々混乱させてしまったようで、

「あの、すみません。言ってる意味が良くわかりません」

怯えた眼差しで俺を見上げ、声を微かに震わせながらも、きっぱりと言い切った。



「いい、俺がやる」


彼女が悪い訳じゃない。そんなの重々承知してるつもりだけど、思い通りに事が運ばない苛立ちに、ついつい語調が荒くなってしまう。



「患者に佐村秀雄ってのがいますよね? 彼はどこ?」


「佐村さんなら、今リハ室に……」


受付カウンターから身を乗り出して、彼女は通路を覗き込んだ。その先、通路の突き当りには、リハビリ室があった。ドア上部のガラス窓から、中の様子が窺える。


何だか良くわからない機械や、ベンチみたいなものとかが設置してあって、そこで数人の患者が治療を受けてる最中だ。理学療法士? 作業療法士? どっちかわかんねぇけど、職員らしき人も複数いる。



「わかりました。とにかくあなたは、今すぐここを出て。騒がず静かに」


「あの、危険人物って……それは確かなんですか?」


「事実確認をしてる暇はない。けどその可能性があるなら、みなを避難させるべきじゃないですか?」


「私に何かできることはありますか?」


「だから言ってるじゃないですか! ここにいる全員を避難させてくださいって」


しまった、感情的に怒鳴ったら逆効果だ。

……と思うも、彼女は案外平気だったみたいで。


「わかりました。院長にそのままを伝えて来ます」

華奢で頼りなげなその容姿からは想像もつかないぐらい毅然とした態度で、はっきりとそう言った。


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