ロシアンルーレットⅢ【アクションコメディー】
「俺、兄貴にやってもらうわ。注射器と瓶寄越せ」


ヒゲに向かって手の平を差し出せば、兄貴が堪りかねたように口を挟んだ。


「安心しろ、皆人。こう見えて高広は医師免許を持ってる。なんなら動脈にだって針を刺せる」


「マジで? ヒゲって医者なの?」


びっくりだ。こんなインチキ臭い医者が、この世に存在するなんて。

やっぱり不安は拭いきれないし。だってヒゲだもん。



「『こう見えて』って、どう見えてっかしんねぇけど。まぁそういう訳だ、安心しろクソガキ。注射なんて久々ではあるけどな」

言ってヒゲは、ニサッと意地くそ悪い笑みを浮かべる。



チキンだのクソガキだの言われて、かなり不愉快だけども、血清を打って貰わない訳にはいかないってことぐらいはわかる。


大人しくヒゲに腕を差し出せば、ゴム紐を思いっきりキツく巻かれて、手が窒息するかと思った。



俺の予想を裏切って、ヒゲの手技は完璧だった。針が全くぶれないから痛みもほとんど感じなかった。



これで、全てが終わる。

坂下と佐村の尋問とかそういうのは一課の仕事だろ、多分。



だけど……。


注射後5分と経たないうちに、何だか動悸が激しくなった。眩暈もする。

立っていられなくてその場にしゃがみ込んだ。


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