ロシアンルーレットⅢ【アクションコメディー】
龍一は横向きに倒れた皆人の身体を転がして仰向けにした。そうしてから身を屈め、皆人の口元に自分の耳を近づけて、1、2秒動きを止める。
再び半身を起こして振り返った龍一は、縋るような瞳で高広を見上げた。
「息を……してない」
「気管が腫れて気道が塞がったのかもな。挿管だ。すぐに気道を確保しねぇと……」
言い終わる前に、龍一は弾かれたように立ち上がり、高広の胸倉を乱暴に掴み上げた。
「お前……ショックが起こる可能性があるってこと、わかってたのか?」
低く太い声で、威圧的に言う龍一に、
「ああ……。この血清は免疫ブログリンに作用するからな。けどな、どんな薬にも副作用はある。そんなことぐらい、お前だって知ってんだろ?」
高広は至って冷静に返す。
「何故それを先に言わなかった?」
言った龍一の表情が、悲痛なほどに歪む。
龍一はわかっていた。こんなのは八つ当たりだと。けれど誰かを責めずにはいられなかった。
皆人を失うかもしれない恐怖でパニックに陥り、常に持ち合わせているはずの迅速かつ的確な判断力を失っていた。
「それを言ったら……お前は血清を皆人に打たなかったのか?」
高広は全く動じることなく聞き返した。